IoTを活用したスマートファクトリーの事例とメリット
2023年11月22日 3:03
製造業界や工場のある企業では、今「スマートファクトリー」という言葉が話題になっています。
スマートファクトリーに関するセミナーや展示会も続々と開催されており、年々関心が高まっているキーワードですが、そもそもスマートファクトリーとはどんな工場を指しているのかご存知でしょうか?
本記事では、スマートファクトリーがどのような工場なのか、なぜ近年急に求められるようになったのか、企業が導入するメリットや実際の導入事例について詳しく解説していきます。
スマートファクトリーとは、工場内の機関システムや製造実行システム、生産設備などがネットワークによって接続・管理されて、工場を経営するにあたって指標となる様々なデータの管理が効率化されることにより、従来の工場よりも生産性の向上が可能となった工場のことです。
例えば、工場のあらゆる機械をネットワークにつなぐことによって、すべての作業員がスマートフォンやタブレットで稼働の状況やトラブルを確認できるようになったり、毎日の機械の稼働から得られたデータを解析し、管理の改善ポイントを簡単に見極められたりなどが可能となります。
これにより、より効率的かつ生産的な工場稼働が実現し、集積されたデータによってこれまでになかった商品を生み出せる可能性もあるのです。
元々スマートファクトリーという言葉は、2011年にドイツの政府が発表した「インダストリー4.o」という政策の中で重要な要素として出てきます。
ドイツは昔から日本と同じようにものづくりを盛んに行っている国でした。
しかし、アメリカや中国などが行っているように、効率を優先して生産現場を発展途上国に移す国際的な流行りの方法を採用すると、自国の開発能力や国際競争力も失われると考えたのです。
そこで、ドイツ国内に工場の生産機能をより優れた状態で維持するために、「新規ビジネスモデルや製品の創出」、「製品に関わるシステムやデバイスのネットワークによる統合」、「製品開発に関する工程の標準化」などを掲げたインダストリー4.0政策を打ち出しました。
そのため、スマートファクトリーという言葉は、今日本で使われているような、単純に工場や製造機能の自動化を表すだけではなく、次のような意味を含む重要な概念となっています。
このように、スマートファクトリーはサプライチェーン全体に関する革新を意味した重要な概念を言ってもよく、今後日本全体でスマートファクトリーの浸透が進めば、製造業界だけではなく他のさまざまな業界に良い影響を与えることが推測されています。
経済産業省が令和2年度に公開した「スマートファクトリーにおけるサイバーセキュリティ確保に向けた調査」という資料によると、スマートファクトリーはデータの活用度合いに応じて複数の段階があると定義づけられています。
【スマートファクトリーの段階】
引用:令和2年度スマートファクトリーにおけるサイバーセキュリティ確保に向けた調査
スマートファクトリーは段階別にレベル付けされており、レベルごとに次のような違いがあります。
レベル | 工場の状態 | レベルごとの特徴やデータの活用度合い |
---|---|---|
レベル0 | 従来の工場 | - 情報がまだ活用されていない |
レベル1 | データの収集や蓄積段階 | - 有益な情報を見極めて収集して状態を見える化し、得られた気付き知見・ノウハウとして蓄積できる状態 |
レベル2 | データ分析や予測を行う段階 | - 膨大な情報を分析・学習し、目的に寄与する因子の抽出や、事象のモデル化・将来予測ができる状態 |
レベル3 | データの最適化や制御を行う段階 | - 蓄積した知見・ノウハウや、構築したモデルによる将来予測を基に最適な判断・実行ができる状態 |
レベル4 | 動的な自律制御ができる段階 | - 複数の工場または事業者が接続し、解析結果や予測を基に、各主体が自律的かつ動的に制御できる状態 |
このように、一言でスマートファクトリーと言ってもレベルによって特徴やデータの活用度合いは全く異なります。
自社の工場のスマートファクトリー化を考えている場合、まずは経済産業省が公開しているロードマップを確認することから始めましょう。
最終的には、動的な自立制御ができるレベル4の段階まで到達することを想定して、要件定義をすることが重要です。
スマートファクトリーが世界だけではなく日本でも求められている背景については、次のような要因が挙げられます。
それぞれの要因について、以下で詳しく見ていきましょう。
引用:2022年版ものづくり白書(令和3年度ものづくり基盤技術の振興施策)|厚生労働省
厚生労働省が発表した「2022年版ものづくり白書」によると、製造業の就業者数は「約20年間で157万人の減少」。さらに全産業に占める製造業の就業者割合も、約20年間で3.4ポイント低下していることが分かっています。
一方で製造業の全就業者に占める若年就業者の割合は、2012年から25%程度とほぼ横ばいで改善していない状況です。
今後少子高齢化によって若年就業者数が減っていくことを考えると、製造分野においては若手の人材確保だけではなく、抜本的な効率化を図ることが求められています。
最新のテクノロジーを駆使して少ない人数でも工場を管理できるスマートファクトリーは、まさに日本が求めている理想と言えるのです。
最新のIot機器やAI、ロボット設備の導入によって「ものづくりを半自動もしくは完全な自動化」することも、スマートファクトリーによって実現しようとしている目的のひとつです。
多くの作業を自動化できれば、人間1人にかかる負担も減らせます。負担が減ることによって、品質が向上したり、業界に魅力を感じて新規就業者数が増えたりなども期待できることから、スマートファクトリー化を検討している企業や人が増えているのです。
複雑な作業を効率化できるのも、スマートファクトリーが求められている理由のひとつです。
作業が効率化して生産ラインの生産性が向上するので、工場自体の競争力をより強化することができます。
新型感染症の感染拡大などによって、日本ではサプライチェーンの脆弱性が顕在化しました。
そのため、日本の政府は複数年にわたった取り組みにより、海外から国内への生産拠点の回帰や多元化を通じた強固なサプライチェーンの構築の支援を決めました。
特にスマートファクトリー市場の国内市場規模は、2019年度の時点で中国について世界第2位となっています。2025年までの市場予測でも堅調に拡大すると見込まれており、政府も補助金や推進事業に対して積極的です。
スマートファクトリーが実現することにより得られるメリットは、主に次の7つです。
【スマートファクトリー7つのメリット】
それぞれのメリットについて、以下で詳しく見ていきましょう。
スマートファクトリー化することで、品質向上面において次のようなメリットがあります。
参考:「スマートファクトリーロードマップ」〜第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて〜
スマートファクトリー化することで、コスト削減面において次のようなメリットがあります。
参考:「スマートファクトリーロードマップ」〜第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて〜
スマートファクトリー化することで、生産性向上という点で次のようなメリットがあります。
参考:「スマートファクトリーロードマップ」〜第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて〜
スマートファクトリー化することで、製品化・量産化の期間短縮という点で次のようなメリットがあります。
参考:「スマートファクトリーロードマップ」〜第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて〜
スマートファクトリー化することで、人材不足・育成への対応という面において次のようなメリットがあります。
参考:「スマートファクトリーロードマップ」〜第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて〜
スマートファクトリー化することで、新たな付加価値の提供・提供価値の向上が期待できます。スマートファクトリー化による、工場の新たな付加価値の提供や提供価値の向上の具体例は以下のとおりです。
参考:「スマートファクトリーロードマップ」〜第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて〜
スマートファクトリー化することにより、製品に不具合が発生した時に、通信機能を通じて使用しているユーザーを把握し、すぐに対策を講じることができます。
そのため、不具合による影響範囲を最小化できるので、リスク管理の面でも大きなメリットがあると言えるでしょう。
スマートファクトリーが実現することにより様々なメリットがある一方で、次のような課題もあります。
それぞれの課題について、以下で詳しくみていきましょう。
現在の日本における製造業の現場では、デジタル化があまり進んでいないと言われています。伝統的なやり方を変更することに対する抵抗感や、ITリテラシーが高くないことがスマートファクトリー実現における最大の課題です。
特にスマートファクトリーで活用している技術の多くは、直接的に製造ラインを効率化するというよりも、データを収集して集まったものを分析して活用するソフト面です。
現場で作業する人や事業者にとって、これまで活用していた機械とは全く異なるものが多く、外国と比較しても日本での導入は遅れています。
スマートファクトリーを実現するにあたって、機械やソフト、デバイスなどを購入する必要があります。しかし、ほとんどの顧客側にとっては、スマートファクトリーがそもそも必要なのか、自社にとって必要な機器はどれなのか判断するのは難しいのが現実です。
例えば、システム導入にあたって要件を定義する時には、必要な機能と必要のない機能を判断しなければいけません。そのためには、ITや必要な機器に関する知識が必要となります。
また複数の企業から見積もりを出した際の値段の違いに関しても、関連知識がなければ正しい判断をすることは難しいです。
さらに、工場自体の仕組みを大きく変えることになるので、現場だけではなく総合的な判断が求められます。現場の各部門やサプライチェーンに詳しい人、ITに精通している人など、スマートファクトリー実現のためにはあらゆる側面からの意見が必要です。
あらゆる側面からの意見を調整して推進していくのには大きな労力が必要となるため、スマートファクトリーは日本にまだ普及しきっていない状況です。
従来の工場のシステムは、基本的に内部に限ったネットワークが構築されており、外部のネットワークとは接続できないことが前提として設計されているところが多いです。
しかしスマートファクトリーの場合、多くのシステムやデバイスをネットワークに繋げなければいけません。そのため、従来の工場では起こりえなかった、新たなセキュリティリスクというのが発生します。
スマートファクトリーで活用されるデータごとのリスクとしては、次のようなものがあります。
【スマートファクトリーで利活用されるデータごとのリスク】
利活用データの分類 | データの窃取・改ざん等のリスク |
---|---|
センサーデータ | 部分的な窃取ではフィールド内からの具体的な機密漏洩に至る可能性は低い。改ざんされた場合、情報が撹乱されるリスクはあるが、正常稼働に直接影響するおそれは少ない。 |
静止画データ | 窃取された場合、フィールド内の機器や組立等の機密が(静止画情報という形で漏洩する |
動画データ | 窃取された場合、フィールド内の機器や組立等の機密が(動画情報という形で)漏洩する |
制御コマンド | 改ざんされた場合、誤った制御情報により正常稼働できなくあるおそれがある |
エンジニアリング設定 | 投入するプログラムへのマルウェア混入等により正常稼働できなくあるおそれがある |
機器状態値 | 部分的な窃取ではフィールド内からの具体的な機密漏洩に至る可能性は低いため、リスクは比較的低い |
生産計画値 | 窃取された場合、生産計画という内部情報が漏洩するおそれがある。改ざんされた場合、情報の解釈を誤るおそれがある |
集計分析データ | 窃取された場合、(情報処理後の)非公開情報が漏洩するおそれがある。改ざんされた場合、情報の解釈を誤るおそれがある |
引用:スマートファクトリーにおけるサイバーセキュリティ確保に向けた調査報告書|経済産業省
このようなリスクを防ぐための対策としては、不正アクセスの防止やアクセスする社員のデバイスの認証、各機器のマルウェア対策、工場ネットワークと外部ネットワークの分類などを行う必要があります。
ここでは、国内でのスマートファクトリー導入事例を3つ紹介します。
⼯作機械にIoTを導⼊して加⼯状況を把握、加⼯条件を最適化を実現した事例について、実施内容とスマート化の効果や成功のポイントをご紹介します。
【実施内容】
参考:「スマートファクトリーロードマップ」〜第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて〜|経済産業省
【スマート化の効果・成功のポイント】
参考:「スマートファクトリーロードマップ」〜第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて〜|経済産業省参考:「スマートファクトリーロードマップ」〜第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて〜|経済産業省
既存の計測機器では加⼯現象を正確に計測できないという欠点を、スマート化によって「見える化」と工具の知能化に成功した事例における、実施内容とスマート化の効果や成功のポイントについてご紹介します。
【実施内容】
参考:「スマートファクトリーロードマップ」〜第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて〜|経済産業省
【スマート化の効果・成功のポイント】
参考:「スマートファクトリーロードマップ」〜第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて〜|経済産業省
IoTとAIを⽤いたシンプルで安価な製造ラインモニタリングサービスを、スマート化によって実現した事例における、実施内容とスマート化の効果・成功のポイントをご紹介します。
【実施内容】
【スマート化の効果・成功のポイント】
少子高齢化や人手不足などによって、日本の製造業の状況は毎年のように変化しています。
また日本だけではなく世界の企業と競争する力をつける必要もあり、自社の競争力を維持し続けるためにも「スマートファクトリー化」による生産性の向上と迅速な問題解決ができる環境づくりは今後必須となるでしょう。
もっとも、自社に適した機器やソフトを選べなければ、期待していた効果を得ることはできず、むしろ大きな損失を生む可能性もあるので注意が必要です。
慎重な準備と適切な段階を踏んで、自社にとって有益なスマートファクトリー化を進めていきましょう。
診断を受けるとあなたの現在の業務委託単価を算出します。今後副業やフリーランスで単価を交渉する際の参考になります。また次の単価レンジに到達するためのヒントも確認できます。
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